【クラブ創設35周年記念手記:3回目】西躰亮貴氏

2025/05/06
アスルの選手たちは、地元のヒーロー

弊社は、障がいのある方の就労支援をはじめ、放課後等デイサービス、生活介護、障がい者グループホームの運営を行っています。アスルクラロ沼津様とは、アスポートおよびトレーニングウェアのスポンサーとしてご縁をいただいておりますが、それにとどまらず、選手の雇用でも深く関わらせていただいています。

アスルとの関係が始まったのは2015年、当時JFLに所属していた頃でした。クラブアンバサダーの川村淳一氏とのご縁から、利用者の皆さんと一緒に試合を観戦する機会を設けたことが始まりでした。その後、尾崎瑛一郎氏が放課後等デイサービスでサッカー教室を開催してくださったり、平日練習後の午後に空き時間がある選手の就労の相談を受けたりと、少しずつ信頼関係が築かれていきました。現在まで30名を超える選手・関係者が、弊社で働いてくださっています。

障がい福祉の現場では、ただ見守るだけでなく、積極的に利用者さんと一緒に汗をかき、日々の業務に真摯に向き合う姿勢が求められます。放課後等デイサービスでは、突発的な行動に対応する判断力や、子どもたちと信頼関係を築く柔軟さが必要です。アスルの選手たちは、午前中のハードな練習後にも関わらず、疲れた表情ひとつ見せず、笑顔で現場に来てくれます。

実際に働いてもらうことで、私たちが想像していた以上の効果が生まれました。特に放課後等デイサービスでは、体力のある若い男性スタッフがいることで、多動傾向のある児童への支援がスムーズに行えるようになりました。保育士資格を持つ女性職員が多い中で、体力面でサポートしてくれる存在は非常に心強く、選手が送迎に同行することで、子どもたちや保護者の方々も自然と笑顔になり、送迎時間の負担も軽減されました。「アスルのイケメン選手が送りに来てくれる」と話題になったこともあります。利用者さんたちにとって、明るく元気に接してくれるお兄さんの存在は、とても嬉しいものです。遊び相手として全力で関わる一方で、時には厳しく接することもありますが、信頼関係の上に成り立つからこそ、子どもたちも大切な学びとなります。

チームのご厚意で、試合観戦に出かける機会も何度かいただきました。スタジアムに集まる2,000人を超える観客、鳴り響く応援の声、そんな非日常の空間は、利用者さんにとって初めての体験ばかりです。初めは音に驚き泣き出してしまう子や、落ち着いて座っていられない子もいましたが、回数を重ねるごとに少しずつ慣れていき、今では「あの選手が出てる!」と応援できるようになりました。一方で、成人の就労系利用者の中には、元々外出を避ける傾向にあった方が、アスルのファンになったことで人生が変わった方もいます。年間シートを自分で購入し、駅からバスに乗って応援に出かけるようになったのです。町のゲームコーナーやパチンコ店などに入り浸りがちになるのでなく、外で健全に楽しむ事ができる経験は、アスルクラロ沼津が地域にもたらしてくれた価値であります。

選手たちにも、良い影響を与えていると感じています。当初は生活を支えるための雇用目的でしたが、支援現場での経験を通じて、人として成長する場になっています。支援の現場では、私たちもプロ意識を持って関わることを伝えており、管理者やスタッフが厳しく接する場面もあります。そうした中で、選手自身が社会性や責任感を身につけ、地域に愛される選手として成長していきました。ある選手は、度重なるけがに苦しみ、試合に出られない日々が続いていました。そんな彼がチームを離れるときに「心が折れそうだったけれど、ここで子どもたちが待っていてくれたから、自分は最後までやりきることができた」と話してくれたことが、今でも心に残っています。障がいのある子どもたちは、人の本質を見抜く力を持っています。利用者に慕われる選手は、チームの中でも活躍する傾向があり、弊社で働いた選手はシーズン中にスタメン出場を果たすという“裏ジンクス”もあるほどです。さらに、この経験がセカンドキャリアに活かされています。福祉施設の実務経験としてみなせるため、引退後に地元で障がい児や児童教育の分野に進んだ選手もいます。この地での経験が、新たな地域に広がることを想像すると、胸が熱くなります。

アスルクラロ沼津と弊社との関係は、単なるスポンサー契約や雇用の枠を超えた、共に理念を実現するパートナーです。弊社が掲げる「三方よし」の理念「関わる全ての人が幸せになる」ことを、アスルの選手たちは日々全力で体現しています。地域で懸命に努力する姿を見せる選手たちが、子どもたちの目に「地元のヒーロー」として映ること。それがアスルクラロ沼津の持つ力であり、これからもこの街の憧れの存在として、輝き続けることを心から願っています。

 

(株)ドリームビレッジホールディングス
常務取締役 西躰 亮貴